「戻す」 冬の間の山菜料理
雪の季節の山菜料理は、実は一年で一番
手がかかっているといえるかもしれません。
春に盛んに採れる山菜を塩蔵したり、
干して乾燥させたり、瓶詰めにして
保存しておきます。それぞれの素材に
合った方法で保存します。そして、
これまた戻し方もそれぞれで、
米のとぎ汁で煮て戻すぜんまいや、
沸騰させた銅鍋に入れたらそのまま
冷まして塩を抜く蕨、水に戻して
早めに塩を抜いた方がおいしいと
言われる塩蔵のきのこやらそれぞれあります。
長い厳冬期を共に過ごす山の保存食
保存食という山の文化
雪国の生活の知恵は今でも脈々と受け継がれています。採りたては最高においしいのだけれど、塩蔵したうどを戻したものは、生とはまた違った味わいがあります。ぜんまいは元々採りたてを食すことが出来ず、お盆以降に食べられます。アクのとても強い山菜ですから、茹でて何日も天日に干して、揉んでは乾燥させてを繰り返し、保存してアクを減らします。そうして戻された山菜を味付けして膳に並べます。見た目は地味ですが、ここならではの保存食の文化も一緒に味わっていただけたら嬉しいです。
あけびの甘露煮
あけびというと紫色の大きな実が頭に浮かびますが、初秋実がなってすぐの小さな黄色い状態のあけびを石あけびと呼んでいます。まだ小さく硬い石あけびを甘露煮して冬の間に召し上がっていただいています。秋には食べられない冬の味でもあります。
食への思い
〈この地の料理〉
志津は日本一の豪雪地と言われるほど、雪に覆われ永い冬を過ごします。雪融けの頃志津にはたくさんの山菜が、一気に芽を出します。ふきのとうは雪のほんのちょっとの切れ目も見逃さずに、あっと言う間に芽を出します。雪の下にある春の知らせです。
そんな志津の春は、心弾むのはもちろん私たちばかりではなく、山菜たちも同じです。春から夏、そして秋まで山の実りは続きます。春のものも、夏のものも、秋のものもすべて大事に使います。少しでも多く冬の備えにするためです。
そんな生活を繰り返してきた私たちには、ここならではの食文化があります。
〈山里料理〉
湯殿山信仰で栄えた志津は出羽三山を目指す行者たちが足を休める最後の宿場町でした。当時は精進料理でおもてなしがされていましたが、戦後志津は登山客やスキー客が多く訪れようになり、精進料理と山菜料理にお肉や魚を加えた山里料理となりました。
〈安心とおいしさ〉
当館では、この地で採れた旬のものをお出ししたいと考えております。しかし、地産のものですべてをまかなうとまではいかないのが正直なところです。地産を広域に捉えれば山形全体のものであり、ものによっては日本産ということになります。代々伝わるつたやの味を味わって頂けるよう、ここならではの料理に仕上げております。その基本は安全、安心、そして美味しいものであるように努めております。
古き良きものは伝統として受け継ぎ、時代の流れの中で創作してゆく料理もあります。そして、いつでも一品一品心を込めて作り、お出ししてゆきたいと思っております。